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食の習慣から〜
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添乗旅行の際には、その地の名物料理をいただく機会もありますが、各国、各地方の風土・気候・習慣に合った料理でもあり、どれもおいしいものでありました。

イタリアの大理石山を視察するツアーに添乗した際、ピサの斜塔で有名なピサに滞在しましたが、そこでの食事のエピソードをお話しします・・・。

その時は15名ほどの少人数のツアーでありましたが、事前に食事の内容を決めず、行き当たりばったりのレストランに飛び込むスタイルにて対応しました。

ピサはフィレンツェと並ぶイタリア・トスカーナ州の観光地でありまして、倒壊がうわさされる斜塔(ここ数年は大丈夫のようです。日本の鹿島建設が補強工事をしたとか)が最も有名です。

この地にはもちろんトスカーナ料理の本場として有名店が立ち並びます。イタリア人の習慣として、夕食は午後の9時頃からスタート、ワインと会話を楽しみながらいただくといったスタイルです。料理も決して豪華といったものではないのですが、約2時間ゆっくり楽しくいただくのが習慣のようです。

このツアーの3ヶ月前にもミラノに添乗で来ていたのですが、あるレストランでこんなことがありました。

ミラノと言えばミラノ風子牛のカツレツが有名です。現地の旅行社にレストランの手配を依頼したところ、大聖堂の近くのレストランを案内され、食卓に着いたとたん、前菜・スープ・メインまでが20分と、あっという間に料理が運ばれて来ました。

お客様も「中華料理以上のスピードだ」とビックリしていらっしゃいました。もしやこちらの到着前に作り置きしていたのではないかと、レストランのスタッフに質問してみたところ、あろうことか、
「日本人はイタリア人の食事のペースとは合わない、皆あっという間に食べてしまわれて、我々も料理を出すペースが追いつかないのです。よってお客様が席に着くと同時にメイン(カツレツ)を作りはじめないとクレームがきます。いかがでしょうか、スピーディーで日本人のペースに合うでしょう?」と、自慢げに答えているのでした。

実はこのレストラン、パッケージでも使用しているようでありまして、旅行会社からもなるべく早く料理を回すよう指示が出ているようです。海外旅行の初心者のツアーであれば、良く言えばごまかせますが、イタリア旅行がマスコミや雑誌で細かく紹介されている昨今ですから、このような対応は全く持ってありえないもの。

案の定、奥のテーブルにいた日本人観光客(確かH社のパック)の添乗員の女性が、我々のお客様と同様、食事の出し方に文句を言われたようでありまして、まだ新人の若い方らしく、半泣き状態です。代わってお店にクレームを上げたところ、デカンタで各テーブルに赤ワインを無料で出してくれました。さすが気前の良いイタリア人気質です。先程の添乗員の女性からも感謝されました。レストランの料理は確かに美味しかったと記憶しますが、日本人の習慣に合わせる努力が、かえって日本人の気分を害してしまったという珍しいケースでした。


トスカーナ料理から話はかなり飛んでしまいましたが、ピサのレストランではコースメニューを注文しました。まず冷菜と2種類のパスタと前菜が始まります。食の細い方は、ここでおなかがいっぱいになります。パスタはお代わり自由なので、別テーブルに座ったお客様は、トマトソースのパスタをおかわりしてしまい、メインが出る前にギブアップしていました。

パスタまでの前菜が終了し、いよいよメインの登場ですが、前菜とメインの間合いの時間は確か40-45分はかかったと思います。みないいペースにてワインを呑んでいましたから、酔っぱらいの集団と化した我々は、メインが出てくるとほとんど手をつけられず、中には日中歩き回った反動で眠り込んでしまった方もいらっしゃいました。

メインも牛肉のソテーと、魚のクリーム煮が別々に出てくるコースで、見ただけでもうご馳走様といった方がほとんどでした。コースメニューで魚と料理が2品出てくるのは、料金的にもそこそこの良いコースでありましたので、私から事前に皆さんにもっとはっきり伝えておくべきだったと反省しました。(フランス料理でもこのように2種類のメインを出す習慣がありますが、イタリア料理のように量は多くありません。)

半分以上残ったメインの進み具合を見て、店の定員が、
「まずかったか?日本人の口に合わないか?」と心配そうに尋ねてきましたが、イタリア人同様、日本人も食事を楽しむ気持ちは一緒でも、事情を話すと半分納得したようなしないような感じでありました。

最後のとどめをさすように、もちろんデザートが出ます。大盛のティラミスがテーブルに配られると、皆白旗でした....。食事をゆっくり時間をかけて楽しむ習慣、時間に追われる日本人にとっては羨ましいかぎりです。

翌日もこれに懲りず、別のレストランで同様の食事を楽しみ、ようやく3日目になってお客様も要領がつかめたのか、自分のペースでデザートを迎えられるようになりました。

夕食のペースに慣れるのには3日かかりましたが、最後まで日本人の習慣になかったものがあります。それは昼食時のワインです。イタリア人は仕事中でも昼食時にワインは欠かせません。(中には会社の工場でも自由に呑める会社もあるようです)。

われわれ日本人にとって、昼食時にアルコールをいただくのは喜ばしいことなのか否か、現地の訪問先との昼食会では勧められるだけ呑んでしまい、中には顔が真っ赤になってしまった方もらっしゃいます。

私自身添乗中はグラス1杯程度に押さえておけば午後の仕事にも力が入るのですが、そうはいかないケースがほとんど。お客様に勧められれば呑まないわけにはいきません。私の顔が茹ダコ状態になることもしばしばです。

昼食後の状況は、御察しの通り訪問先の会議室ではあちこちでコックリコックリ相槌を打っている姿が見られます。私も視察中バスの中で休ませてもらったことが何度か・・・。この習慣、万が一日本で受け入れられるようなことになれば、日本のGDPは確実に2割落ちることと断言します。このイタリア人の習慣、羨ましいような恐ろしいような。

トスカーナ料理は意外と素朴な料理が多いように思えましたが、どのレストランも味付けも質素で日本人に合う(アメリカ料理のようにゴテゴテのソースのかかったような料理とは正反対)のではないかと思いました。トマトソースものもありますが、すべてにトマトソースが使用されているというわけではありません。合わせてオリーブオイルは欠かせません(トマトとオリーブオイルの組み合わせは体にも良いようですね)。


さて、イタリアと同様、同族でもあるスペインでも食事時のワインは欠かせませんが、料理以外に彼らには「シエステ」という習慣があります。現在ではかなり失われてきた習慣ではありますが、地方に行くと未だ根強く残っています。

「シエステ」とは、昼寝の習慣です。昼食を終えると、約2時間昼寝の時間があります。午後の企業訪問等の手配の際は、特に注意しなければなりません。

スペイン人(全国民ではりませんが)は、朝8時頃より仕事を始め、12時から約2時間昼食を取り、その後2時間シエステをして、午後4時から8時ころまで仕事をして帰宅、9時過ぎ頃から深夜12時頃までゆっくりと夕食を取ります。

日本人から見れば全く持って仕事に身が入らないような1日の流れですが、サクラダファミリア等の有名建築物をデザインしたガウディも、このような習慣からアイディアがうまれたのでしょう。

以上、食生活も国によってさまざまです。この異なった習慣から独自の文化・宗教・哲学等が生まれ、独自の国民性を生み出すと考えますと、現在の日本は今まで培った独自の習慣を失いつつあるのではないかと思われます。

相手を敬う礼作法等、日本人の良い習慣を改めて見直すよう教育(学校のみならず家庭でも)を再度修正する必要があるのではないでしょうか。

好ましくない新しい習慣として、朝の通勤電車の車内でのイヤホンからの音漏れや化粧をする女性の姿はもはや日常的ではありますが、さらにスナック菓子やパン、中には弁当を食べている光景を見ることもしばしば、となりの人にこぼしてしまったら….などと考えも及ばないのでしょうか、乳児をお連れの母親は別でありますが、通勤電車は食事会場ではありません。

習慣が習慣でなくなるのは、習慣を養うことより、容易いことなのです。■

(世良共歩)

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