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格式と伝統の生と死のドラマ 
スペイン国技・闘牛を楽しむ



“スペイン” と聞いてまず思い浮かぶのは “フラメンコ” と “ガウディ” そして “闘牛” ではないだろうか?

スペインの国技として1000年以上の歴史と伝統を持つといわれ、スペインの人々にとって、“春から秋にかけての闘牛、冬から春にかけてのサッカー” は欠かせない2大イベント。

イメージ的には、闘牛士が赤いマントを振りかざしながら、“オーレ!” と軽い身のこなしで牛を弄んでいるような、一見すると楽しそうで優雅な印象を受けるが、実際の闘牛は正直かなり残酷であり、動物虐待の最たるもののひとつ。

世界的に動物愛護の声が広まっている現代ではあるが、スペインの闘牛は “伝統文化” であり、 “芸術” であり、神聖な “儀式” でもある 。

ここでは、スペイン最大の闘牛場であるマドリードのラス・ベンタス闘牛場での画像を交えながら、その “儀式” を紹介したいと思う。


スペイン最大の闘牛場 ラス・ベンタス闘牛場


スペイン最大のラス・ベンタス闘牛場


マドリード中心部にもほど近いラス・ベンタス闘牛場は、スペイン国内に6,000ヶ所もあるといわれる闘牛場の中でも最大級で、その収容人数は約24,000人。

開催日ともなれば、周囲にはアルコールやお菓子を売るたくさんの露店の他、闘牛グッズの専門店などが並び、雰囲気はプロの野球やサッカーの試合とまったく同じ。

座席は大きく分けて3種類あり、陽の当たり具合によってSol(日向)/ Sombra(日陰)/ Sol y Sombra(日向&日陰)に分かれており、夏の日中は気温40度を超えるスペインでは、当然Sombra(日陰)が人気で値段も高い。

Sol y Sombraは、時間が経つにつれて日陰だったり日向だったりという座席で、窓口の他、インターネットでの事前購入も可能。


ラス・ベンタス闘牛場の座席配置図



入場口で受け取るプログラムには、今日登場する闘牛士の出身地や生年月日、これまでの戦績などの他、相手となる牛の毛色や体重などが紹介されているが、残念ながらスペイン語のみ。


闘牛士のプロフィール表

牛のプロフィール表はこちら。




売店でビールを買い込んで中へと足を踏み入れると、そこはまさに巨大なアレナ(アリーナ)。


ラス・ベンタス闘牛場のアレナ(アリーナ)。

座席は固い石に数字を書き込んだだけの簡素なものなので、自前でクッションを持参している人もいれば、レンタルクッションを借りることもできる。


石の座席とレンタルクッション



午後7時、開幕の合図となる老齢のバンドが演奏する行進曲に合わせて、バセイージョという厳粛な入場式の始まり。


開幕の合図を奏でる老齢バンド

門が開き、アルグアシルという騎馬隊の先導で登場するのは、これから生と死のドラマを繰り広げてくれるマタドール、バンデリーリョ、ピカドールの面々。

闘牛士には厳格な格式があって、登場する順番や挨拶をする場所など、すべて細かく決められているとか。

※マタドール、バンデリーリョ、ピカドールの役割については後述。


アルグアシル

闘牛士の登場

そしていよいよ闘牛の始まり!(※一部、ショッキングな画像を含んでいます。ご注意ください。)

入場の挨拶を終えると、早速闘牛の開始。

音楽が止まり、無人になったアレナが静寂に包まれると、これから登場する牛のプロフィールをプラカードで紹介。


牛のプロフィールが書かれたプラカード

闘牛には大きく分けて3つのステージがあり、カポーテ→バンデリーリョ→ムレータと進行し、それぞれ登場する闘牛士の役割も異なっている。

ステージ1・カポーテ(Capote)

最初のステージがカポーテ。カポーテとは、表がピンク、裏が黄色の大きなマントのことで、闘牛士の助手たちがこのマントを使って、その牛のスピードや癖、身体に欠陥がないかどうかなどを見極める。

ここで登場する助手の闘牛士は剣を持っておらず、攻撃することはできないので、危険を感じたときはひたすら逃げるしかない。

無人のアレナに登場してきた牛。

カポーテを携えた闘牛士、華麗な身のこなしで牛の状態を見極める。

危険を感じたら逃げるしかない。

ひと通りの牛の性格や状態が把握できたら、長い槍を携えたピカドール(Picador)が馬に跨って登場し、牛の肩甲骨あたりに全体重をかけて槍を突き刺すことで、牛が最高の興奮状態に。

馬は丈夫な防具は着けているが、20世紀初頭までは防具もなかったため、興奮した牛に角で攻撃され、命を落とすことも日常的だったとか。

ピカドールの長い槍で、肩甲骨を一突き。これで牛は最高の興奮状態に。

カポーテでは、牛の力を奪いすぎても残しすぎても次のステージに影響を及ぼすため、知識と経験が試される重要なステージ。

ステージ2・バンデリーリョ(Banderillas)

ピカドールが退場すると、次くステージがバンデリーリョ。色紙で作られた綺麗なフサの付いた銛(短剣)を両手に持ち、3回(計6本)牛の背中に突き刺して、再び牛の興奮を呼び起こすステージ。

既に牛はかなり興奮しているし、突進してくる牛に対して正面から突き刺していくので、ほんのわずかなタイミングの遅れが大事故に繋がる。

攻撃してくる牛を迎え撃つ。

見事に銛を突き刺す。

この時点で牛はかなりの流血。

そして最後のステージへ。

ステージ3・ムレータ(Muleta)

バンデリーリョを終えると、響き渡るトランペットに合わせて主役であるマタドール(Matador)が登場。

闘牛というと赤いマントが思い浮かぶが、この赤いマント(ムレータ)はマタドールだけが持つことができる特別なもの。

マタドールは与えられた15分の時間を使い、観客の “オレ!” という声援を浴びながら、見事な身のこなしで、興奮状態の牛を左右にあしらい、徐々に体力を奪っていく。

マタドールと牛の真剣勝負。

そして、すべてを締めくくるのが、“真実の瞬間” といわれるエストカーダ(Estocada)。

走り回って疲れた牛の前足が揃って動きが止まったタイミングを見計らって、長さ75センチの剣を使って、肩甲骨の間にあるわずか5センチ程度の急所を45度の角度で一突きで仕留める。


エストカーダ(真実の瞬間)

見事に急所に刺されば、鋭い剣は心臓近くの大動脈まで至り、牛は即死する。牛を苦しませずに一瞬でトドメを刺すのが闘牛士の最高の美徳とされ、観客は白いハンカチを振って賞賛するが、急所を誤って肺に刺さると、牛は吐血しながら苦しむことになり、大きなブーイングを浴びることになる。

すべてを終えた後、マタドールには仕留めた牛の耳が1枚与えられるが、技の華麗さと美しいエストカーダを披露したマタドールには、耳2枚が与えられたり、最高の演技を披露した場合には尻尾が授与され、それが闘牛士としての最高の栄誉とされる。

こうして命を落とした牛はロバに引かれて退場。

死んだ牛がどうなるのか気になるところだが、このような規模の大きな闘牛場には専用の解体所があり、その場で解体された牛はマーケットに並ぶことになる。

こうして闘牛は、3人の闘牛士が2頭ずつ、計6頭の牛を仕留めたところで終了する。


歴史と伝統あるスペインの国技であり、シーズンに訪れた旅行客にとっては、フラメンコと並んで最高のエンターテイメントではあるが、実際に観てみると、その過程はかなり残酷でショックなものだし、逆に牛の角で突かれて命を落としてしまった闘牛士のニュースも時折聞く。

バルセロナのあるカタルーニャ州では2012年から独自に闘牛を禁止しているが、カタルーニャ州自体、もともとスペインからの独立志向が強い地域なので、今のところ続く自治体はなさそうだとか。

動物愛護と動物虐待、歴史や伝統など、さまざまな意見は紙一重でなかなか結論は出そうにないが、人間と牛との生と死を賭けた真剣勝負は、いろいろな意味で強烈な印象を残してくれる。


(2018年10月 M.Nakamura)



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