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南米チリ

ソムリエのつぶやき・・・


 5年ほど前になるが、南米チリを視察で訪問した。目的地は、首都サンティアゴから700キロほど北上したアタカマ州とその周辺。

 視察先は事前に決めておらず、その場その場の判断で立ち寄り先を決めるスケジュールだったことに加え、夜も行動する必要があったため、労働時間や走行距離の制限が厳しいドライバーの手配は諦めて、自分でレンタカーを運転することにした。

 しかし、チリの公用語であるスペイン語はまったく不勉強なので、日本語が堪能な日系チリ人の男性に、ガイド兼通訳として同行してもらうことにした。

 約1週間の滞在で、総走行距離は2,500キロ。日中はほぼ車移動なので、お互いに話をする時間がたっぷりあった。

 彼は日本語通訳やガイドとしての仕事もしているが、実は本業は「ソムリエ」だそうで、チリ各地のワインショップやホテルに招かれてワークショップを開いたり、最近はフランスを抜いて日本の輸入量が1位になったチリワインを買い付けに来る業者の案内もしている。

 私もワインは嫌いではないので、いつの間にか仕事の話から反れて、ワインの話ばかりになってしまっていたが、その中でとても印象に残ったのが今回の話。

?アンデス山麓エルキヴァレーに広がるぶどう畑(冬に撮影)
@アンデス山麓エルキヴァレーに広がるぶどう畑(冬に撮影)


 時は1860年代、「フィロキセラ(和名:葡萄根油虫)」という寄生虫がフランスで発生した。このフィロキセラは、和名でもわかる通リ、葡萄の根に寄生して、その樹液を吸うことで枯死させる害虫。

 根の部分にいるだけに、薬剤を撒くことができず、あっという間にフランス中のぶどう畑が被害を受け、その損害はフランス全体のワイン生産量の2/3を失ったともいわれている。

 更に、周辺のスペイン、イタリアをはじめとするヨーロッパ各地にも拡大した。当時、ワインといえばヨーロッパ、の時代でもあり、世界を代表するワイン生産地の大部分が壊滅的な被害を被った。(カリフォルニアワインが世界的に評価されるようになったのは、1970年代以降といわれているが、そのカリフォルニアでも80年代にフィロキセラの被害があった。)

ワイナリーで完熟を待つぶどう
Aワイナリーで完熟を待つぶどう


 そして、ぶどうの木自体に影響が及ばないように駆除するための研究が続けられ、その結果、白羽の矢が立ったのが「チリのぶどう」。

 世界的に蔓延したフィロキセラ被害ではあったが、唯一、被害がなかったのがチリ(及びオーストラリアのごく一部)。なぜかこれら南米原産の品種の根には、フィロキセラへの耐性があることがわかり、チリ産のぶどうを台木(根)として、ヨーロッパで栽培されてきた品種をその上に接ぎ木することでようやくこの問題を克服し、現在に至るそうだ。

 そのため、彼的には、「今、世界の美味しいワインがあるのはチリのぶどうのおかげであって、ヨーロッパのぶどうは、チリのぶどうの子孫だ。」というプライドがあるようだ。

 世界的なソムリエの称号を得るためのテストやコンクールにも何度か招待されたそうだが、それらがアメリカやヨーロッパの基準で行われているのは面白くないとのことで、断り続けているらしい。

チリ北部の名物料理・牛スネ肉の煮込み
Bチリ北部の名物料理・牛スネ肉の煮込み

日本でも人気のセビーチェ(シーフードのマリネ)はもともと南米の料理
C日本でも人気のセビーチェ(シーフードのマリネ)はもともと南米の料理


 チリワインというと、日本ではつい最近まで「安ワイン」の代名詞で、デイリーワイン程度の印象しかなかった(スーパーでフルボトル3本1,000円とかで売ってるし)が、彼に言わせると、「(当時)チリワインはまだ日本では知名度が低いので、品質の高くない安いワインを業者が樽ごと大量購入して、日本で詰め替えて売ってる。」からだそうで、はっきり言って地元のチリ人でも飲まないような程度のものらしく、コンチャ・イ・トロやセーニャに代表されるような世界で認められた高品質ワインだってたくさんあるのに… と、ちょっと残念そうだった。

 確かに、現地のレストランやホテルなんかで地元のチリ人が飲んでいるワインは、それなりのいい価格だったし、ワインの知識が豊富な彼のおかげで、肉料理(アサード)が中心のチリ滞在中は、私の好みにぴったりの赤ワイン(価格は日本円で3,000円程度のもの)を都度選んでくれ、本来の目的であった視察の成果はもちろん、チリワインに対しての理解も深まった。


レストランにずらりと並ぶチリワイン
D「DIABLO」「LA JOYA」「JUNTA」など、レストランにずらりと並ぶチリワイン)。

 また、フランス原産だが、チリやアルゼンチンでの栽培が主流のぶどう・マルベック種は、フィロキセラの被害をまったく被っていないために、接ぎ木ではなく自根で栽培されていることで、ぶどう本来の濃厚な味を楽しむことができ、その色から「黒ワイン」ともよばれている。

 私は専門的な知識はないので、アタックだとかタンニンだとか、スミレの香りが…なんてことはわからないが、その凝縮された味わいは、まさにマイブーム(今風に言うと推し?)で、現在でも酒屋で “MALBEC” のラベルを見つけては、ちょいちょい買って楽しんでいる。

CONCHA Y TORO MALBEC
ECONCHA Y TORO社のMALBECワイン(ホームページより)


 彼は日系人ということもあって、奥さんを連れての日本への旅行を計画しており、世界的にも評価が高まっている日本産ワインの産地を巡ってみたいとのことだったので、来日した折には山梨のワイナリー巡りに招待する約束をしていたが、残念ながらコロナ禍で頓挫… 近い将来の楽しみに待っているが、「日本のおいしいワインもチリのおかげ」なんて言わないことを願っている。


(2022年9月 M.Nakamura)



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