第二次トランプ政権になり、その突飛で強硬で傲慢な政策に、まさに世界が引っかき回されている。しかも、朝令暮改そのままの方針転換や撤回も日常茶飯事で、米一部メディアでは大統領を皮肉る「TACO」という造語が話題となった。
“Trump Always Chickens Out” の頭文字をとったもので、“トランプはいつもビビッて退く” という意味。

毎日のようにトップニュースで報じられているトランプ関税においては、イギリスとは速攻合意し、中国にはアメリカ側から擦り寄った印象だが、日本を含むその他の国に対しては発動と延期を繰り返し、その都度株価や為替レートの乱高下が繰り返されている。
防衛面においても、これまでは “世界の警察” として睨みを効かせていたアメリカが、トランプ政権になった途端に “なんでアメリカだけが膨大な赤字を抱えてまで他国を守る必要があるのか?” とばかりに因縁とも取れるような防衛費負担の増大を求め、とうとうヨーロッパ29ヶ国を含む32ヶ国からなる「NATO(North Atlantic Treaty Organization)は、国防費の負担を対GDP5%まで増額することを決めてしまった(日本は正式加盟国ではなくグローバル・パートナーなので、これには含まれない)。
NATOとは想定している脅威となる国は違えど、やがて日本や韓国にも同様の支出を求められる可能性もあり、戦々恐々としているところではあるが、トランプ氏にとっては “これがディールというものだ” と表向きはまったく気にする様子もない。

前置きが長くなってしまったが、今回の話題は「NATO」。とはいっても先述した軍事同盟のことではない。実はミャンマーやカンボジアを中心とした東南アジアの一部では、「日本はNATO」と呼ばれている。
もう10年以上前になるが、ミャンマーを訪問した際に現地企業の方から教えてもらったもので、その意味は「No Action Talk Only(話はするが動いてくれない)」を皮肉ったもの。日本人からすると、まあバカにされたような揶揄だが、なかなか上手いことを言うもんだと感心したものだ。
とはいえ、これは日本人の本質を見事に表したもので、「事前に様々なリスクや発生しうる契約上の問題を想定した上で、会議と検討、報告と決済を何度も繰り返し、完璧なストーリーを構築してから初めて行動する」日本スタイルのビジネスと比較し、これらの地域で毎度の競合相手となる中国や韓国は、「まずはそのビジネスを獲得するのが最優先で、何か途中で問題があればその時に考える」式が主流。
まあ、その分トラブルも多いようで、どっちもどっち的なところだが、国全体が海外からの投資や技術協力を望んでいる側にとっては、要求が簡単に通って、すぐに結論を出してくれる、しかも価格も格段に安いほうが当然魅力的なのだとか。
話をトランプ関税の話に戻すが、赤沢経済再生担当大臣が日米関税交渉の担当となって、このコラムを書いている7月1日の時点ですでに7回もの訪米を繰り返している(マイル相当貯まった?)。
1回目の訪米時には、サプライズで大統領自身も同席して大臣も満面の笑顔で “記念写真” を撮ったようだが、報道を見る限り、友好的だったのはこれっきりという印象。日本は、これまでの投資や技術協力、米軍基地へのおもいやり予算や米国産農産物、エネルギーなどの輸入を「パッケージ」として、これも繰り返しアピールすることで自動車産業を中心とする関税交渉の切り札にしたい考えのようだが、欧米人的な考えは、「それはそれ、これはこれ」というのが一般的で、最近はキーマンであるベッセント財務長官と会うことすらできずに帰国することもあり、これぞまさに「NATO」の本領発揮というところか…
アメリカ側も、「これ以上日本と協議しても無駄」という雰囲気に変わってきており、とうとう大統領から「ディールできるか疑わしい」というコメントも出され、このままでは協議は決裂となり、一方的に関税が通告される流れになってきた。
日本がまだ「切り札」的なものを隠し持っているのかどうかはわからないが、一般庶民が今の流れを見る限りはタイムリミットは刻々と近づいている印象。あとはトランプ大統領がウルトラC的な「TACO」発動で一発逆転の妥結を待つしかないか…■
(2025年7月2日 M.Nakamura)

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